後を追いたい好奇心もあるが、さすがに不気味だ。周囲に誰か男の人が居ないか探してみることにした。

謎の影が向かった方向とは逆方向、客室の入口が並んでいる廊下を歩いてみたが、すぐに行き止まりで誰もいない。

この時間では、トイレにでも起きない限り部屋の外に出ている者はいないだろう。

ふと、一つの部屋のドアが少し開いていることに気づいた。

そういえばさっきの物音は、この辺りの客室からしていたのではないだろうか。

カナンはそっと隙間から部屋の中を覗いた。真っ暗でよく見えないが、妙に散らかっている。備え付けのテーブルが倒れているようだ。

もちろん、この部屋の乗客同士が痴話喧嘩をして、散らかった室内を片付けずにそのまま寝ているのかもしれない。

だが、なにか良からぬことが起きていたら…

カナン「ヒッ…!」

首筋に鋭い痛みが走った!

カナン「ギャッ!」

さらに背中を勢いよく押されてカナンは部屋の中に押し込まれた。と同時に足が何かに突っかかって壁に向かって転がり込んでしまった。

倒れ込んで振り向くと、足が引っかかったのは床に横たわった女性の身体だった。この部屋の乗客だろうか。意識がないらしくぐったりと寝そべっている。

顔を上げると異様な風体の男がカナンを見下ろしていた。

カナン「何なの、誰なのあなた…?」

??「やったよ、若い女じゃないか。キャハッ!」

男はニタニタ笑いながらギョロッとした目でカナンの顔を覗き込んでくる。

カナン「(気持ち悪い…)」

カナンは大声を出そうとしたが、急に身体の力が抜けてガクッと倒れ込んでしまった。

男はカナンのこめかみのあたりを踏みつけてきた。裸足だった。

このまま気絶したらどうなってしまうのか…。恐怖が込み上げてきたが、抗うことはできず気を失ってしまった。