カナン「船尾側の無人区画を探しましょう。客室以外で何かを隠すならそういう場所になるのよね?」
シラート「だ、ダメです。無人区画の捜索は単独では…。」
カナン「2人いれば大丈夫なんでしょ?」
シラート「…」
1階層の船尾側は一般の客室や乗客用の施設がない区画だった。
今回のクルージングでは船の最大数にかなり余裕があるそうで、使われていない部屋も多いらしい。
照明は殆どついておらず、シラートの持ってきた懐中電灯の光を頼りに部屋を幾つか見て回った。
シラート「あ、すいません。何かが動いた気がしたのですが、カナンさんの影だったみたいです…。」
カナン「……そう。」
使われていない小部屋を幾つ見てみたが、特に何も見つからなかった。
3つ目の部屋に入って中を照らしていると、またシラートの悲鳴がした。
シラートが震えながら後ずさって、カナンの後ろに回り込んだ。
部屋の入口に大柄な人が立っている。暗くて顔がよく見えない体の一部が隆起しているのか、ふらふらとよろめいているのも相まって異様な雰囲気だ。
少し近づくと、皮がめくれ上がって歯がむき出しになった顔が見えた。
カナンは叫び出しそうになるのを必死でこらえた。まるで、海外のフィクション映画に出てくる、人が死んだ後に異形になった化け物のようだ。
??「ヴゥ゙ゥァ…。」
人型の化け物は、太い腕を壁に突っ張って反動を付けるとカナンたちに向かって覆いかぶさりながら腕を振り回してきた。
カナンはシラートに突き飛ばされて横っ飛びに倒れ込んだ。
人型はそのまま力任せにシラートを殴りつけ、壁まで吹き飛んだシラートに掴みかかった。
カナンはとっさに手をついて体を起こすと、人型に掴み上げられているシラートと目が合った。
自分を庇ってくれたその男は、首が背中の方までありえない角度で曲がり、すでに絶命している。
カナン「ぎゃぁぁぁっ!」
人型は動かなくなったシラートの体を放り投げると、ゆっくりとカナンに近づいて来る。
恐怖でうずくまったカナンの髪を無造作に掴み、壁に沿って天井に伸びている鉄のパイプめがけて、力任せに顔面を叩きつけた。