右舷側のデッキは人がまばらだった。
まだ多くの人は自分の客室にいるだろうし、売店やカフェのある左舷側と違って景色を見たい人が来ているのだろう。
なんとなく人が少ない方へ行って、海を眺めることにした。
手すりを掴んで見の乗り出してみると、心地よい波風が頬を撫でる。もう陸地は小さく見えるだけになっていた。
景色に夢中で気が付かなかったが、ふとすぐ近くにポツンと少年が立っていた。デッキにいるのに海を見るわけでもなく、手すりにもたれて下を向いている。
とても顔色が悪いのが気になった。
カナン「あの〜」
カナンは声をかけてみることにした。
少年「…え、なんですか?」
少年は17〜18歳くらいだろうか。顔をかすかに上げて、気だるげに目だけこちらに向けてきた。
肌が白いので青ざめているのがわかりやすい。
カナン「いや、なんだか気分が悪そうだなって。よかったら酔い止めの薬あげようか。」
少年「いえ、大丈夫です。」
カナン「でも顔色悪いし、お水だけでも飲んだら?」
カナンは年下の男子にはお姉さん風を吹かせたがる性質だった。
少年「……いえ、大丈夫です。」
カナン「そう。
ところで一人ってわけじゃないわよね。ご家族とはと一緒じゃないの?」
少年「一人ではないですが、今は匂いに酔ったので離れているだけです。」
カナン「匂い?」
少年は質問には答えず、無言で船の方に歩いていった。
カナン「あ、ごめんね!騒がしくっしちゃって!」
少年「…」