左舷側デッキ

左舷側には売店やカフェがあり、乗船してすぐだというのに結構人がいた。カナンは海を横目に見ながら、船首のほうに向かって歩いて行った。

???「すいません、ちょっといいですか。」

2人組の男が声をかけてきた。

カナン「はい、私ですか?」

男A「この後で集まる場所について訪ねたいのですが、1階層の中央あたりのホールか、それともレストランだったでしょうか?」

男B「実はこいつが預けていた僕の分もガイドブックを忘れてしまいまして。」

カナン「ああ、それならメインホールって書いてありましたね。
あと、確か忘れ物とかの窓口が売店の近くにあるらしいですが、そこでガイドブックもらえるみたいですよ。」

男B「え、そうなんですね。だからもう少し見て回ろうって行ったじゃねえか!」

男A「ごめんごめん、でも親切な人でよかったじゃないか。ありがとうございます、助かりました。」

男たちは親しげにこづきあっている。

男B「ありがとう、助かったよお姉さん。俺はムート、こいつはワシリだ。
ちなみに、せっかくだから美人に声をかけようってこいつが言ったからお姉さんに聞いたんだぜ。」

ワシリ「おい、そんなこと言ってないだろ!」

ムート「ハハハハ、心の中で言っていただろ。」

カナン「フフフ、気分がいいから信じておくことにするわ。
私はカナンよ。」

男たちはどちらも30歳くらいだろうか。
ムートと名乗った方は快活で、いかにも友人が多そうなタイプに見える。
もう一人、ワシリという方はややおとなし気で柔らかい雰囲気だ。

ムート「ところで一人で来てるのかい?」

カナン「いえ、友達と2人で」

ムート「友達ってことは女の子だよね」

カナン「ええ、そうよ。」

2人は一瞬顔を見合わせた。

ムート「せっかくだから、今晩一杯行きませんか?よかったら友達と2人で。
5階層にバーがあるから、こいつが行きたいって言ってたんだ。」

ワシリ「うわっ、すぐそうやって僕をダシにする。
でも、お礼もしたいのでこちら2人で奢りますよ。」

ムート「いや、そこはお前の奢りだろ!ガイドブック失くしたんだから。」

忘れ物の窓口は知らないのにバーは知っているのか。

はじめからナンパ目的なのだろう。カナンは少し可笑しくなった。

さて、どうしよう。