カナン「…あなたが乗客を誘拐していたのね!?」
カナンの朦朧とする意識の中で問いかけた。
あの紅茶に薬を盛られていたのだろう。ワシリの様子から、警戒して少し啜るくらいにしておいたのだが、甘かったらしい。
ワシリはカナンの顔を観察するように覗き込んで言った。
ワシリ「どちらにしても、この船の乗客は全員私たちの商品になって貰う予定です。
このツアーは、我らが組織の重要なイベントなんですよ。
活きの良い被検体を手に入れるために、わざわざ船に乗ったもの好きが僕と、もう何人かいるだけです。」
カナン「そんな、この船ごと…?
まさか今の状況も…。」
すべては理解できないが、何かしらの組織の陰謀が働いているということだろう。
その時、固定電話が鳴り響いた。スーツの男の一人が受話器を取って応答する。
スーツの男「ドクター、もう間もなくで島に着くそうです。」
ワシリ「そうか、では私は島に行く前にラボに寄ってくる。」
ワシリ「このまましばらくここに置いておいていい。どうせ今夜か明日には船ごと制圧する。
今移動して他の奴らに見られたくはないからね。特にジェイのやつには…。
ラボとこの部屋に捕らえた者は、私の所有物というルールだ。」
カナン「ま、待って…。」
カナンは後ろ姿を睨んだまま気を失った。
どれくらい寝ていただろうか。すぐにここから逃げなくては。
縛られたときに意識はあったので、手首に力を入れて関節を固め、脱力したときに隙間ができるようにしておいたのだ。
父からロープの結び方を教えてもらっていたときの知識だった。
カナンは背後に縛られた腕をぐっと上に振り上げると、腰のあたりにバンバンと思い切り打ち付けた!
さすがに抜けない。手首の辺りの皮と肉がが裂けそうに痛い。
カナンは顔を真っ赤にして、さらに背面の腕を叩き付けた。すると、右の手首がスルッと縄を抜けた。
カナン「よしっ!」
カナンは固く縛られた足首の縄を解き、腰のあたりに巻かれた縄もほどいて立ち上がった。
ムートはまだ起きないので、縄をほどきながら、外に響かないように小さめに声をかけた。
ムート「信じられねえ…。
この船が…ワシリがそんな。」