ワシリの部屋1

カナン「…あなたが乗客を誘拐していたのね!?」

カナンの朦朧とする意識の中で問いかけた。

あの紅茶に薬を盛られていたのだろう。ワシリの様子から、警戒して少し啜るくらいにしておいたのだが、甘かったらしい。

ワシリ「おや、いつもより効きが悪いみたいだ。」

ワシリはカナンの顔を観察するように覗き込んで言った。

ワシリ「どちらにしても、この船の乗客は全員私たちの商品になって貰う予定です。
このツアーは、我らが組織の重要なイベントなんですよ。
活きの良い被検体を手に入れるために、わざわざ船に乗ったもの好きが僕と、もう何人かいるだけです。」

カナン「そんな、この船ごと…?
まさか今の状況も…。」

すべては理解できないが、何かしらの組織の陰謀が働いているということだろう。

その時、固定電話が鳴り響いた。スーツの男の一人が受話器を取って応答する。

スーツの男「ドクター、もう間もなくで島に着くそうです。」

ワシリ「そうか、では私は島に行く前にラボに寄ってくる。」

スーツの男「この2人はどうしますか?」

ワシリ「このまましばらくここに置いておいていい。どうせ今夜か明日には船ごと制圧する。
今移動して他の奴らに見られたくはないからね。特にジェイのやつには…。
ラボとこの部屋に捕らえた者は、私の所有物というルールだ。」

ワシリはスタスタと部屋を出ていった。

カナン「ま、待って…。」

カナンは後ろ姿を睨んだまま気を失った。

カナン「ハッ!」

カナンは目を覚ました。

どれくらい寝ていただろうか。すぐにここから逃げなくては。

縛られたときに意識はあったので、手首に力を入れて関節を固め、脱力したときに隙間ができるようにしておいたのだ。

父からロープの結び方を教えてもらっていたときの知識だった。

カナンは背後に縛られた腕をぐっと上に振り上げると、腰のあたりにバンバンと思い切り打ち付けた!

さすがに抜けない。手首の辺りの皮と肉がが裂けそうに痛い。

カナンは顔を真っ赤にして、さらに背面の腕を叩き付けた。すると、右の手首がスルッと縄を抜けた。

カナン「よしっ!」

カナンは固く縛られた足首の縄を解き、腰のあたりに巻かれた縄もほどいて立ち上がった。

ムートはまだ起きないので、縄をほどきながら、外に響かないように小さめに声をかけた。

カナン「ムートさん!起きてください。」

縄をほどき終わったので頬をバシバシと叩いてみる。

ムート「…んん。ここは?」

カナン「私たち、眠らされていたんです。」

手短にムートに状況を説明した。

ムート「信じられねえ…。
この船が…ワシリがそんな。」

カナン「とりあえず、ここから逃げましょう!」