1階層の船尾側は一般の客室や乗客用の施設がない区画だった。

今回のクルージングでは船の最大数にかなり余裕があるそうで、使われていない部屋も多いらしい。

照明は落としてあるため、ゴートンの持つ懐中電灯の光を頼りに部屋を幾つか見て回った。

カナン「特に何もなさそうですね。」

3つ目の小さい部屋から出たとき、視界の端で何か動いたような気がしてカナンはビクッと立ち止まった。

目を凝らして通路の奥を見ると、何か塊のようなものが置かれているようだった。

カナン「ヒッ!」

カナンは思わずゴートンの肩を掴んだ。

ゴートン「どうしたんだ、カナンくん!?」

ゴートンが懐中電灯を通路の奥に向けると、大きな生き物が腹ばいになっているのが見えた。明かりに反応したのか、緩慢な動きで起き上がろうとしているようだ。

ゴートン「あれは……人間?」

カナンは叫び出しそうになるのを必死でこらえた。まるで、海外のフィクション映画に出てくる、人が死んだ後に異形になった化け物のようだ。

??「ヴゥ゙ゥァ…。」

人型の化け物は、ブヨブヨした腕を壁に突っ張って体を支えると、こちらにゆっくりと近づいてきた。

パニックになりながら叫ぶと、駆け寄ってきたゴートンも声にならない声を上げた。