3階層は客室がメインの区画なので人が通路やデッキにいる人も多いと思ったが、出歩いている人はまばらだった。
少し経つと、どこかに行くために通りかかった女性2人組がいたので声をかけた。
カナン「突然すみません。
昨晩、不審な人物を見たり物音を聞いた方が複数いまして、同じようなことや心当たりがあればお聞きしたいのですが。」
しかし、その女性たちは特に気になることはないとのことだった。
その後も通りかかる人に3組ほど声をかけたが、めぼしい情報はなかった。
やはり一人で探すのは難しいというか、行き当たりばったりになる。何か行方不明者に共通点があるかなど、船長に聞いたら教えてくれただろうか。
突然後ろから声をかけられて振り向くと、若い船員が立っていた。全く気が付かなくて驚いてしまった。
シラート「す、すいません、いきなり。
船員のシラートです。
もし…、もしよかったらお手伝いできると思うのですが、どうでしょうか。」
シラート「そ、それは…。
捜索行動といいますか、いえ、私が手伝うのではなくあなたに手伝ってもらうという方が…正しいという気はしているのですが。」
何故かはわからないが、この男は私が友人探しをしているのを知っているのだろうか。
カナン「勝手な行動をしてしまいすいません。
でも、やっぱり友人を探したくて。」
シラート「勝手な?
船長から頼まれて聞き込みをしているのではないのですか?
だってさっきホールで…」
しまった、とカナンは顔をしかめた。この男は何か勘違いをしているらしい。
カナン「私がですか?
いえ、部屋に戻れと言われたんですが、友人のことを考えるとじっとしていられなくて。」
シラート「すいません、早とちりしてしまいました!」
この青年が言うに、船員のほとんどは船内の仕事で手が一杯で、捜索に当たれるものはかなり少ないらしい。
そこでゴートン船長は、一般の乗客にも協力を呼びかける方針を船員たちに提案していた。ただし、信用ができる人物かどうかはわからない者が大半なので、誰に頼むかは慎重に判断するようにと話していたそうだ。
シラート「船長はなんというか豪快な人でして…。
さっきのホールでの行動で、あなたのことを絶対に気に入ったと思いました。
それでてっきり、聞き込みや捜索の依頼をしたものだと…」
シラート「では、今の話は…わ、忘れてください。
失礼します!」
シラート「え、僕は…。いや、あなたは船長に部屋に戻るって言ったって…」
一人で聞き込みをしても何もできなそうだったので、船員といっしょにいた方がよいに違いない。
それに、見るからに気の弱そうな青年だ。情報だけでも聞き出したい。
カナン「そうじゃなくて、あなたの判断で乗客に手伝わせることができるのでしょう?
私は友人が行方不明になってるの。信用できるに決まってるじゃない。」
シラート「いや、そういうわけでは…。
わ、わかりました。でも私が手伝うのではなく、あなたが」
カナン「どっちでもいいわ!船員の人たちはどんな風に動いているのか教えてください!」
シラートを押し切って、一緒に行動することにした。
船員は主に1階層で聞き込みをしているらしい。無人区画の捜索もする予定だが、行動規則に則ると複数人で行わ無ければいけないので人員が足りないらしい。
ただ、船長は単独で捜索するつもりだろうとシラートは話した。