ムート「へー、部屋が広いな。VIP待遇じゃねえか!」
ワシリの部屋は一般の客室と比べると明らかに広く、備え付けてあるテーブルやソファも上等だった。
腰掛けると、ワシリが紅茶を出してくれた。
カナン「知ってるかもしれないけど、上の階層ではちょっと物騒なことになってます。
このフロアは大丈夫って言いましたが、上の部屋と何が違うんですか?」
ワシリの話では、このフロアはツアー企画に投資した企業やその紹介などで参加した者たちの客室があるらしい。
そのため一般客には案内はなく、食事もこのフロアだけの食堂がある。
ワシリ「いや、僕はたまたま招待された親戚が参加できなくなったから、代わりに乗せてもらっただけなんだ。
正直、あまり関わり合いになりたくない類の人たちもいるから、食事は上の階層に食べに行っていたけど、これからは控えるよ。」
ワシリ「それで、このフロアには何をしに来たんだ?」
ムート「いや、俺はなんとなくお前を探してたんだけど、カナンさんは…。」
カナン「シーナが行方不明なの!
昨日の夜、あなたと2人であの後どこに行ったの!?」
ワシリは驚いた様子で身を乗り出したが、カナンの真剣な表情を見て椅子に腰掛け直した。
ワシリ「あの後は、もう1つのバーで少し飲み直したよ。
少し遅くなってしまって、酔い冷ましにデッキを散歩して別れたんだ。
…部屋まで送ればよかった。」
カナンはじっとワシリの顔を覗き込んだ。
なんで送らなかったんだと掴みかかりたい気持ちが湧いたが、ワシリの肩を落とした様子を見て抑えた。
そういえば自分も送ってもらっていない。