細い階段を抜けた先には、思いの外広い空間があった。

レンの部屋がある2階層よりもよほど高級感がある。

小綺麗な通路だが、奥の方から異様な臭いが漂っていた。

一番奥の左右の部屋、それぞれ独特で強烈だった。

向かって右の扉は、生き物の内蔵やおそらく濃い血液の臭い。

向かって左の扉は、刺激と甘さが混ざった科学薬品のような臭いだ。

でも迷うことはない、トーテルの臭いは一番奥の左の扉に続いている。

レンは通路奥まで歩いていくと、左側の扉は少し開いていて、中から話し声が聞こえる。

??「ヨハレンのやつが爆薬の量を間違えたって?
キャッキャッキャッ!
どおりで、揺れが激しくて注射器が幾つ割れたと思う?」

かすれたような男の声だが、まるで子どものような喋り方だった。

??「だから軍役が長い爺さんはダメなんだ。脳みそが鈍っちゃってるからな〜
あ?俺の薬のせいじゃねえよ!」

ガンッと金属を置くような音がすると声も止まった。

どうやら電話だったらしい。

つまり、中にいるのは1人だ。

レンはふぅっと息を吐くと、ゆっくりと扉を開けた。

眼の前に異様な風貌の男が立っていた。

レンよりずっと小柄で、目を爛々と輝かせてニタニタと笑っている。

??「何だお前は、何故ここに入ってきた?」

表情からは読み取れないが、少しは驚いていたようだ。

レン「あの…すいません。友達がここにいるはずなんだ。
連れて帰ってもいいですか?」

??「友達?この姉ちゃんのか?」

レン「…いや、その人じゃない。
その人はだれ?」

??「じゃあ、さっき連れてきたあのガキか。」

男が目をやった部屋の奥をよく見ると、手足を縛られた人が3人が寝そべっていた。

一番手前の少年が、上半身を起こそうとしている。

レン「トーテル!」

レンは駆け寄って顔を見た。確かにトーテルだ。手足と口を縛られているが、意識もちゃんとしていそうだ。

??「そのガキは返してもいいぜ。」

レン「…本当だね?助かるよ。」

??「代わりにお前が残ってもらう。
このくらいの年齢の被検体が欲しかったんだ。当然だろう?」

レン「被検体…
あなたは科学者なんですか?」

話しながら、レンはトーテルの脚の紐をほどいた。

ジェイ「私はDr.ジェイ。
お前の言う通り、科学と研究に身を捧げている。」

レン「(どうやって逃げる?
この男はさっき誰かと電話をしていた。ゆっくりしていたら人が来るかもしれない。)」

レンは目と鼻で辺りを探った。

たくさんの薬品が置いてる棚がすぐ近くにある。明らかに酸性の強いものから、複雑な香りのする薬まで。

毒をあいつに投げつけたり、貴重な薬を叩き割ったりすれば、動揺するのではないだろうか。